剱岳 白の記憶 PART4


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・・・・


11時5分

剱岳山頂。




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思っていたより、人がいる。







・・・・


残念ながら

登頂したふたりは
やはり達成感のようなものが全く湧いてこなかった。

さすがの剱でもそれは特別なものではないという事か。

この時、僕に訪れているのは強烈な無。

同じく登頂を果たした団体さんたちの喜びようと
多くの人が順番待ちで記念写真を撮るその光景に
自分は場違いなのではないかとさえ思えてくる。




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キム兄は僕ほど極端ではなかったが

「下山の事も考えると、あまり気持ちが湧いてこない。」

この事である。

我々にとって、山旅における登頂という行為は
あくまでも他と同じひとつの過程にしか過ぎない。

それだけに
我々にとってアルプスシリーズの<アイロン>というものは
重要なモチベーションコントローラーでもあった、という事なのだ。

・・・・

とまあ、そんな御託は置いといて


剱を囲む山々は微妙に雲の中。

惜しい、とても惜しい。




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さて、山頂の祠前の長蛇の列も落ち着いたようである。


ひとつの山頂標を見たキム兄。

「やっておきたい事がある。」

と、それを手に取った彼は




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・・・・



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・・・・



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!!!



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冬の山行で魅せたラッシャー木村の如く
秘めたる荒々しい本性を曝け出したキム兄。


というわけでもなく

当然、最初からそれは割れていた。


・・・・


平和な一日である。




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さて、登山者の群れから少し離れた地点で今後を話し合う。

「先に下山を始めた方がいいのでは。」

この事である。

下りに待つのはカニのヨコバイ。

間違いなくあそこでまた渋滞だろうと推測する。
動き出すなら、登山者がこぞって昼食中の今のうち。

すると、近くにいた団体を率いるガイドさんが

「我々は5分後に出発しますよ。」

と、声をかけてくれた。

どうやら団体さんは剱御前小舎まで引き返すようで
意外と彼らも時間的にはカツカツらしい。

その後、ガイドさんは言葉には出さなかったが

(今のうち、先に降りたほうがいい。)

というジェスチャーを顔の表情だけで伝えてきた。

そうか。

ありがとう。ガイドさん。



2人はすぐに下山を開始した。


11時20分。

山頂滞在時間は15分だった。




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パッパと下ると
後半のハイライトはすぐにやってくる。


カニのヨコバイ。




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まず少しだけ下降すると

なるほどコレがヨコバイか。




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確かにコレは足元が見えない。

しかも自分はカメラバッグをぶら下げているので余計見えない。

最後の方だけリアルにそれが邪魔で足の置場が見つからず、焦った。


ただ、全体的には想像よりもサラッとしていた。

のどごしオールライト。



そしてすぐに鉄のハシゴ。




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この下、タテバイと合流する地点で

また違う小規模グループを率いるそれぞれのガイドさんがふたりで何やら話し込んでいた。

聞いてみると
2人組の若い男性のうち一人が壁から落下して腰を強打、どうやら歩けないらしい。

連れの男性が救助ヘリを電話で要請したようだが
怪我人は意識もあるし、普通に座れているので、最悪な状況ではないようで少し安心した。

この2人組は我々よりも若かった。
まだ20代前半といった感じで、登山歴は2年目だと言っていた。

明日は我が身。

いま一度肝に銘じるとして
その二組の小規模グループが動き出す前にスルスルっと先へ進んだ。

まだクサリ場は続く。




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さよなら岩壁。




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荒々しい雰囲気は少しずつ去る。




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帰りは前剱に寄るとしよう。




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12時40分

前剱。


目の前にはもちろん剱。




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「登りでここに寄ってたら、やっぱりこれで充分だって思ってたかもしれないね。」

2人の思う事はやはり一致していた。


さて、ここでお昼を食べている2人の男性がいる。

それぞれソロ山行のようだが、剱御前小舎で知り合い、一緒にここまで来たようだった。

その際に、小屋の人から

「目安として、前剱を12時の時点で越えてなかったら戻った方が良い。」

と言われたそうだ。

この手のアドバイスは聞く耳持たず行ってしまう人なんていくらでもいそうなものだが
このお二人はここまでで引き返すとの事。

「ここに来たらさ!この剱岳の山容凄いでしょ!もうこれで満足しちゃったよ!」

この事である。よほどこの剱の絵に感動してしまったようだ。

隣の男性は無言でうんうんと頷いている。

そして、その後に出てきた言葉が

「でもさ、剱岳登ったら剱岳見れなんだよね!だったらここで眺めてる方が良いんじゃないかって思ったよ!」

これは・・・

思わず、僕とキム兄は顔を見合わせて、笑った。

「それ、僕たちも数時間前に同じ事言ってました。」

と、彼に伝えた。4人で笑った。

これぞ、理屈抜きの”もったいない登山”。

上には上がいる。

この事実を知れた事が、正直一番の収穫なのではないかと思ったものだ。


一気に和んだ4人。

その後、その男性が

「2人の写真撮ってやるよ!!カメラ貸してよ!」

と言ってきたが、いや大丈夫ですと答えると

「なんでだよ!」

と、これを数回繰り返し、結局我々がその勢いに根負けした。




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今更だが、実はこの山旅
偶然にも僕とキム兄2人とも白シャツを着てくるという
まるでチームシャツのような少し恥ずかしい事態となっていた。

その証明写真という事で、やはり撮ってもらえて良かったというわけだが

それにしてもシュールな感じで撮ってくれたので感謝感謝である。


2人の男性は、まだここでのんびりしていくとの事で
腹が減ったきた我々は剣山荘でランチの予定なので、先に下る事にした。




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ていうか、そんなに下るのか・・・。



13時30分。

一服剱。


ようやくここまで戻ってきた。


そして、ここでも一人の男性とのやりとり。

彼もまた、剱御前小舎から登ってきて、ここで引き返すらしい。




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「あれが剱岳ですか?」

と、彼に聞かれた。

その瞬間、本当の事を言うべきか2人は迷っていた。

登りで我々が勘違いしたように、その最高峰はその後ろにすっぽりと隠れている。




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(あれが剱岳だと思っていたほうが、ここで引き返す人には幸せなんじゃないだろうか・・・)

この事である。


結局、ウソをつけない性格の2人は正確な情報を彼に伝えた。

「そうなんだぁ・・・。」

それを聞いて彼は何を思ったのだろう。

それは彼にとって幸せな情報だったのだろうか・・・・。


そんな事を話しながら、2人は最後の長い下りをスコスコと歩いていった。




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13時50分

剣山荘。




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待ちに待った昼食タイムだ。

ここからテント場の剱沢までは40分程で戻れるわけだが
如何せん剱沢小屋は軽食がカップラーメンしかない。

セコセコ食べずに、食べられる時間・場所がある時はバッと食べる。
それが我々の山旅の信条でもある。

「おい、なんだよ。ここは牛丼もあるのか!」

受付でメニューを見るや、テンションが今日イチで上がる2人。

結局、メニューを見る前から心に決めていたカレーを頼む。




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ここでそれをひと口頬張った瞬間に、僕は確信した。

「これが達成感というものか。」と。

いくつもの緊張を越えて、それから無事に解放された後のカレー。

間違いなく、この山旅で一番幸せな時間だった。



僕の知人が、以前にカレーについてこう評していた。

「カレーっていうやつはな、菩薩なんだよ。万事万人に深い味わいを与えてくれるんだ。」

なるほど、どうりで・・・。


と、いつの間にかカレーの話にすり替わってしまったが

結局、何が言いたいかと言いうと


カレーは美味い


という事だ。



・・・・



「テント張ったまま、ここに泊まってしまおうか。」

というバカな意見が出る程まったりしてしまった。

これはダメだ。体が本気で動かなくなる前に戻ろう。



一際美しく映る緑の大地。

この一日の余韻に浸りながら、一歩一歩を踏みしめた。




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つづく
by inouewood | 2015-09-02 00:43 | 山のこと
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