剱岳 白の記憶 PART3


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剱の壁。




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一服剱には一組のご夫婦がいた。

どうやら彼らはここまでで
ゆっくりそれを眺めて戻るらしい。






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この時、僕たちは勘違いしていた。

目の前に聳えるそれが剱岳だと思っていたのだ。

実際はそれは前剱で、この角度だと親分はその裏にすっぽり隠れているのである。


ご夫婦もそう思い込んでいたようで

我々も

「ここまででも充分だな。」

この事である。




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キム兄が「一服剱で一服」というベタな野望を叶えている時も

「剱岳に登ったら、剱岳が見えないんだよね。」

と、僕はあえてモチベーションを下げる。


しかも、振り返ればこの景色。

満足だった。




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しかし、まだ歩き始めて間もないという事で当然先へ進むわけだ。


この時は

「意外と近そうだな。」

と、思っていたので、まだ気分は楽だった。




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一旦グッと下り、この急斜面を登り返すわけだが

その下りの途中

戦から帰ってくる登山者たちが一服剱へ次々と登り返してくる。

その登山者たちの表情はことごとく憔悴しきっているように見えた。

・・・。

キム兄と顔を見合わせる。

(おい、大丈夫なのか・・・)

まあでも
行くしか、ないだろう。




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ガレ場をトントントントンワシントンと登っていく。

振り返ると
一服剱が剱御前と別山とトリオを結成している。

この絵はたまらなく美しかった。




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一服剱から歩き始めて40分ほど経ってようやく
自分たちの勘違いにうすうす気付き始めた。

(出てこなくても、いいんだぞ。)

と、心のどこかでそう願っていたのだが

その背中から親分は


出てきた。




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右手に少し登れば
どうやらそこが前剱らしい。

このまま左に進むのが巻き道となるようだ。



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さて、前剱に寄るかどうか。

僕とキム兄の答えは一緒だった。

「そこに寄って剱岳を拝んでしまったら、ホントに行きたくなくなってしまうかもしれない。」

この事である。

ふたりの意見が一致するという事は、そう。

リアルなやつである。


・・・・


なので

そのまま巻いていく事にした。




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9時25分

前剱をスルー。



目の前のそれが一段と厳つく見える。




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そしていよいよ、本格的に鎖場が始まる。

このヨコバイは大したことないのだが、その先からのトラバースで

「マジで?ここ行くの?」と、少し困惑。


この時は本気で「来なきゃよかった。」と思ったものだ。




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そういう心理状況になったかと思えば

次に剱は優しい顔を見せてくる。

なんというツンデレ具合。




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クサリ場を次々とやっつけては休憩。




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所々で登り専用と下り専用のルートがある。

この辺りで一旦合流する地点があるのだが

そこですれ違った一人の登山者が
どうやら僕たちが歩いてきたルートが下りルートだと言い張っている。

「もう来ちゃったんだからしょうがないけどさ、登りはあっち側から上がってくるんだよ。」

と、言っているのだが、どう見ても彼が指差す方向にルートなんてない。

しかも、下山側から見返してみると
我々が歩いてきたルートには堂々と『×』マークと登りルートを示す矢印が付いている。

いったい、あなたは何を言っているんだと問いたくなったが
皆こうやって精神面もすり減らして戻ってくるのかと思うと、やはり何も言えなかった。


・・・・


そしてついに

核心部が現れた。




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これがカニのタテバイか。




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どうやら、前を行くのは団体さんだった。

しかも、セルフビレイしながら。

ひとつひとつの動作をしっかり確認しながら登るので、これがまたとてつもなく遅い。

勿論、それは悪い事ではないし、それが最も安全な対策である。
登山者はこういった団体との遭遇を考慮して早めの時間でのアタックを心がけるものなのだろう。
我々の準備が甘かった、という事だ。

登り始めて途中で待たされるのは、色々と力を消耗するので
彼らが登り切るのをただただ待つ。


さて、タテバイはどうだったかというと
まあこんな感じなのかなという予想通りのものだった。

もちろん、それは簡単だったというわけではない
一瞬、肩からぶら下げている大きなカメラバッグが邪魔で
体を寄せられず少々ドキッとしたポイントもあった。


いやそれにしても
体の小さい人には難しそうな箇所もあるので
それを越えてしまう女性達はやはり凄いなと感心もする。


・・・・


そして、それを越えるともう一発クサリ場。

ここでもまた団体さま通過を無言で待つふたり。




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そこを越えれば後は歩くだけ。




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そして・・・




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つづく
by inouewood | 2015-08-30 02:36 | 山のこと
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