剱岳 白の記憶 PART1


アルプスの主峰でアイロンを掛けるという行為に情熱を傾ける男たちがいた。

北岳槍ヶ岳常念岳・・・そして男たちのパッションが次なる向かう先

それが




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剱岳。


最初にそのアイロニング山行を計画したのはもう3年も前の話になる。





・・・・


2012年夏。
仕事による相次ぐ離脱によって、気が付けばメンバーは僕とキム兄のみに。
最も登頂へのモチベーションが低い2人になってしまったという事で
アイロンも剱も放棄し、二人は八ヶ岳へ向かった・・。

2013年夏。
メンバーは揃っていた。
しかし、アタックを目論む2日目が高確率の雨予報。
「雨の岩壁はまずい。」
さすがに男たちはパッションを維持する事が困難となり
現地へ向かっていた途中に車の向きを変え
比較的天気が安定していた八ヶ岳へ向かった・・・。

2014年夏。
やはりメンバーは揃っていた。
初参加のメンバーもいて、モチベーションも上昇していた。
しかし、天気というものはとても無情で、我等を失望の底へ突き落とした。
台風がやってきてはどうしようもない。
結局、連休3日目に県内の河原でデイキャンプという代替案で苦虫を噛み締める事となった。


週末休みではない我等の仕事上、3連休をしかも同じタイミングでとる事は容易ではない。
そのチャンスは年に2回ほどしかやってこない。
一度流れれば1年が終わる。その繰り返しだった。


・・・・


そして今年。

休みを合わせる事が思っていた以上に難しくなっていて
それでも僕とキム兄とカジさんという、クラシックメンバー3人で挑む計画が出来ていた。

しかし、今年もまたトラブルは発生した。

アイロニング山行といえばやはりアイロニストのカジさん。
そんな<鉄人>とも呼ばれる男がまさかの負傷。
しかし、それでも骨折が癒え始めた足で「剱は行く!」と意気込んでいた彼。
むしろ我々のほうがそれに気を使い
「果たして本当に大丈夫なのか。」
キム兄と懸念を抱いていく。

しばらくして
カジ家ではこの件から「離婚危機へと発展しそうだ。」という報告があった。

当然である。


・・・・


かくして
3年前と同じように”もったいない登山”を提唱する僕とキム兄という
モチベーションの低いコンビ再び・・・と、相成った。

例年であれば、ネタも考慮して”もったいない登山”に切り替えたいところだったが
二人の思うところは一緒だった。

「今年を逃したら、もう行けない気がする。」

待ち続けてかれこれ4年が経つ。来年メンバーが揃う確証もない。
でもやはり、一度は行っておきたい。2日目の天気も良さそうだ。


ふたりはアイロンを放棄した。

珍しく、純粋に、その頂へ。



・・・・



8月18日(火)

8時

ふたりは扇沢にいる。


今回は剱沢でテント2泊の予定。

僕はいつもの50リットルのザックにヘルメットを突っ込み容量ギリギリのパッキングだ。

キム兄は65リットルのザックに納まりきらないほどの荷物で、外付けのオンパレード状態である。
ちなみに彼は、冬の赤岳鉱泉もったいない登山以来、半年振りの登山となる。


案の定、準備に手間取っていた2人は、
予定していた8時30分のトロリーバスには乗れず
9時発ギリギリまでパッキングに試行錯誤を繰り返す。

バスに乗り黒部ダムへ。ここでダムを横目に黒部湖駅へ。




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ケーブルカーに乗り黒部平へ上がり、お次はロープウェイで大観峰。

バス1本乗り過ごした事でそれぞれ待ち時間が発生し、予想以上に時間は押していた。

最後に再びトロリーバスに乗りようやく室堂に到着だ。




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この行程だけで往復1万円(荷物量込み)。
これが立山方面の山行を躊躇させる所以。

登山歴11年、初の室堂は



白かった。




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初日の天気予報はあまり良くなかった。
ガスに包まれる室堂。立山の雄姿は拝めそうもない。

辺りを歩くのは傘を差して、もしくはカッパを着て俯き歩く観光客。




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さて、忘れてはいけないのは
今回の山行が僕とキム兄コンビであるという事だ。

1時間後に早くも「揺れ」がやってくる。




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12時10分

雷鳥沢。




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「ここでテントが張りたい。」

2人はほぼ同時に揺れた。ロケーションがあまりにも良すぎるのだ。

おそらくキャンプ場のバックに広がっているであろう雄大な山々を想い

「もう、今回は立山でいいんじゃないか?」

この事である。

今回は止める人がいない。




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大いに揺らぐ2人。アリかナシかで言われたら、アリだ。

唯一、我々のそんな迷いという名のボールを、ネット際で210cmのバレー選手のごとくブロックしてるもの。それはキム兄が「剱岳に行ってくる」と会社で宣言している事だった。「いや、もったいない登山だったんだよ。」なんて言っても、今回ばかりは通用しない。まさに3枚ブロック。止める人がいればこれが8枚ブロックほどになるのだが、残念ながら3枚といえど隙はある。そんなギリギリの「揺れ」がこの後何度か我々を襲う事になる。

とりあえず、最初の「揺れ」はキム兄の自制心のおかげで回避した。


・・・・


出発が遅れたので
これはもしかしたらテント場着が15時を回ってしまうかもしれないなと
時計を逐一確認しながら別山尾根の急登に取り付く。





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すると、登山者の数が一気に増えた。
コレだけ人がいれば、多少到着が遅れても心強い。

この登りがなかなかきつい。他の登山者も皆汗ダクである。
そして何よりもキム兄の足取りが重い。半年振りはなかなか堪えるようだ。

見下ろせば雷鳥沢のみが辛うじて見える。




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目指す先はガスの中。




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時折、疲れた男たちを癒していくれるのは
ヒゲ期を迎えたチングルマの群れ。




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ただ黙々と歩き続け、キム兄に「上。」と言われて見上げると
いつの間にひとつの小屋が視界にあった。




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つづく
by inouewood | 2015-08-26 21:54 | 山のこと
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